アルコール依存症者の共依存からの回復

〜身体拘束時記憶回想療法がもたらした効果〜

医療法人耕仁会札幌太田病院 精神科急性期治療病棟

○佐々木法広 原田良一 阿部一九夫

 

1.                        はじめに共依存はあらゆるアディクションの「根っこ」にある問題であり、その核には

自己否定感・深い悲しみ・怒りがある。そのため、自分の内側にある空虚感を埋める健康的な方法を見つけることができない。今回、アルコール依存症例に対して、やむを得ず拘束時記憶回想療法を行った。この症例を通して@アディクションの「根っこ」である共依存の視点から治療・看護を検討することの重要性、A記憶回想療法の共依存回復に対しての有効性、以上2点について考察したので報告する。

2.                        症例紹介と入院までの経過:A氏、20歳代男性。両親はA氏が幼少の頃から不仲。父親

はギャンブル依存症で祖父も同様で借金を抱えていた。母親は夫に対し共依存行動をとり、A氏に対して精神的虐待をした。短大卒業後結婚し養子となったが、義父との折り合いが悪く町内会役員に選出されるなどストレスがたまり、うつ的となり他病院に入院。21歳の頃から習慣的に飲酒。その後、連続飲酒に近い状況となり、失禁・ブラックアウト、義父母・妻に対して暴言を吐く等威圧的態度があり、当院入院となる。

3.                        治療・看護の経過:入院後、入院拒否、興奮、離院の可能性があり、保護室、身体拘束

実施となる。母親への陰性感情、離脱症状によるせん妄・不穏状態が続いていた。ケアカンファレンスを行い、共依存という視点から症例を検討した結果、拘束時記憶回想療法を導入し、@母親に対する自分の感情を知り、認め、受け入れること、Aその感情を伝えること、のプロセスを通して、抑圧された陰性感情の解放を目標とした。そのために、A氏が効果的に取り組み注意集中できるよう、室内環境調整を行った。役割を決め、看護師は生活面・身体面での援助を行う母性的側面を担い、医師・内観担当者はA氏の面接者として父性的側面を担った。導入初期:「何もしてもらっていない、無駄にうるさくされた」など母親に対して陰性感情を表出するようになった。導入中期:医師・看護師・内観担当者が付き添い、母親自ら身体拘束を解除する試みを行ったが、母に対して、「お前ぶっ飛ばしてやる」など興奮したため解除を中止。しかし、これを契機に、「母はいつも甲高い声で叱っていた」「母が(ヒステリーを起こして)父や祖母に食ってかかるのを見て、いつも腹を立てていた」など具体的に母親に対しての自身の感情を述べるようになった。導入後期:身体拘束解除。表情は穏やかになり、「母との喧嘩は常に些細なことで、自分が悪いと思うこともあった」「心配・迷惑をかけた、今後は反省をして仲良くしたい」など@、Aのプロセスを経て、母親と自己との関係を客観視し、陰性感情が軽減した。その結果、「みんなに迷惑をかけて生きてきた、今まで好き勝手にやってすいませんでした」「結婚後近所付き合いができず、うつになり酒に逃げ気がつけばアル中になっていた。これからは一切酒を断ち、前向きに近所付き合い、なんでもバリバリ出来るように頑張っていこうと思います」等の自責感・恩愛感から母親をはじめとする他者像の認知が変わり、自己像の認識の修正ができた。その後、集団精神療法・断酒会参加、ピアカウンセリングを行う等積極的に治療プログラムに取り組むようになり、入院期間1.5カ月で退院した。

4.                        考察A氏の父親はギャンブル依存症で借金を抱えていた。一方母親はそのような夫に対

し共依存行動をとり、幼少のA氏の要求はつねに後まわしとなり時には精神的虐待に及んでいた等、いわゆる「機能不全家族」であったと考えられる。A氏は原家族体験の中で、身に付けたさまざまな思考・行動パターンや家庭内での役割が、大人になった自分を縛る鎖となってしまい、自分自身の感じ方や価値基準を育てられず、周囲の視線で自分をはかる「共依存」という生き方を身に付けたのではないだろうか。1)その結果、母親に対して陰性感情を持ち続け、あたたかい家族の温もりを求めたはずの結婚が更に自身を苦しめ、対人関係の問題やストレスによりうつ的となり、その心の痛みを和らげ、空虚感を満たすためにアルコールに救いを求めたことは容易に推察できる。私たちはこの点に注目しアディクションの「根っこ」となっている共依存という視点から治療・看護を検討したことで問題点が整理され、看護の方向性が明確になり具体的な治療・看護介入につながった。また共依存の回復プロセスには、否認→怒り→悲しみ→無関心→受容、を経ることが重要であり、共依存回復のプロセスは内観療法の治療機序(自己を見つめる内観3項目、母性的側面、父性的側面、注意集中の4つの基本構造)2)と合致しており、A氏の母親に対する陰性感情の軽減、自己像の認識の修正ができたと考える。

5.                      結論@アディクションの「根っこ」である共依存からの回復が最も重要である。A共依

存からの回復プロセスは、内観療法の治療機序と合致することから記憶回想療法は共依存の回復に対して有効であると考える。

 

 

〈引用文献〉

1)ASK(アルコール・薬物問題全国市民協会):アディクション,(株)アスク・ヒューマン・ケア,第1版第1印発行,P20,2002.

〈参考文献〉

@ケイ・マリー・ポーターフィールド著:共依存かもしれない,大月書店第,1刷発行,2006.

A太田耕平:幼児から高齢者までの心の発達「十段階心理療法」,第10版,医療法人耕仁会札幌太田病院,2005.